
最盛期を迎えた2月末。選果場には、次から次へと軽トラックがやってきます。運ばれてきたのは、収穫されたばかりのブロッコリーたちでした。一年を通して豊富な農作物が育つ雲仙島原エリアの中でも、全国トップクラスの生産量を誇るのが「雲仙ブロッコリー」です。10月上旬から6月にかけて、島原半島の雲仙市・吾妻町を中心に栽培され、九州はもちろん、全国各地へと出荷されています。そんな雲仙ブロッコリーの一大産地を支えるのは、生産者とJAの密接なパートナーシップと、驚きの「冷却」技術でした。
圃場から出荷までは時間との勝負

朝の光に石垣が映える圃場には、黙々とブロッコリーを収穫する本多さん家族の姿がありました。最初にお話しを伺ったのは、吾妻町で農家を営む本多一磨(かずま)さんです。
見事な手捌きで、茎と葉を切り落とし、次々に背負いかごへ入れられるブロッコリー。「収穫したら、できるだけ気温が高くならないうちに出荷しています」と本多さん。ブロッコリーは冷涼な温度を好みます。収穫直後から劣化が始まるため、圃場から出荷までは時間との勝負。本多さんの見事な手さばきにも納得です。

▲ 一房あたりなんと約6秒足らずで収穫するという職人技。目にも止まらぬ速さです。

▲ 朝9時半、圃場に置かれた荷台には、収穫されたばかりのブロッコリーのコンテナがすでに山積みになっていました。
気候や収穫条件に合わせた計算づくしの栽培計画
本多さんはブロッコリーの栽培を始めて24年目。元々、ハウスできゅうり栽培をしていたお父さまの後を継ぎますが、台風でハウスが倒壊した際に、再建か作目転換かを検討した結果、当時注目され始めていたブロッコリーに切り替えたそうです。

「ブロッコリーは7月から種蒔きが始まって、お盆ごろに定植します。収穫は10月ごろから。だいたい梅雨前の6月まで続きます」と本多さん。山と海が近く、寒暖差がある雲仙の気候に加えて、水捌けが良い段々畑の圃場はブロッコリー栽培に適した条件です。それでも、半年以上に渡って露路で栽培・収穫ができる理由を伺うと、「年間でだいたい20種類の品種を植え替えているんですよ」との答えが。「ブロッコリー」と一口に言っても、実は多くの品種があり、気候や生育条件などに合わせて植え替えているのだそうです。

一般的に、一つの圃場で1シーズンに栽培から収穫までを2回転させています。そのなかで、たとえば、夏場の暑さに強い品種や、冬の低温伸長性に優れた品種など、個別特性を把握し、品種に合わせて植え付けの時期を細かく変えて栽培管理しています。それを年間15〜20種類も! 年々変化する気象の傾向や天候条件なども関係するでしょうし、市場を見越す力も試されます。
「気候や作りやすさに合わせて品種を選んでいるんです。生産者の好みもありますし、市場人気との兼ね合いで選ぶこともありますね」とさらりとおっしゃる本多さんですが、20種もの品種を扱った栽培計画とは、想像するだけでも目が回りそうな高度な技術です。
ブロッコリーのほかに水稲栽培も行っている本多さん。一年のうち、作業を休める時期はほんのわずかです。それでも、家族や部会仲間と連携しながら、負荷の高い農繁期を乗り切っているのだそうです。私たちの食卓に欠かせないブロッコリー。いつでも食べられる定番野菜となったその背景には、生産者のみなさんが長年積み重ねてきた知恵と努力がずっしりと詰まっているのだと、再認識させられるお話しでした。

▲ 「小学校で雲仙のブロッコリー栽培を紹介する活動をしているんです。説明を聞いて、農業に興味をもってくれる子どもや、喜ぶ顔を見る瞬間はやっぱり嬉しいですね」と本多さん。写真は大事な収穫作業の一員である妻のまゆみさんと、母の悦子さんと一緒に。

▲ 石垣が美しい段々畑の圃場が広がる島原半島の風景。雲仙岳から海に面した急傾斜。火山由来の石材を利用し、平地の少ない土地を農地へと変換した先人の知恵が息づいています。

入荷後の初期冷却と目視選別が品質の要!
続いて訪れたのは、島原雲仙の多様な品目を扱う「ハブ」の役割を担うJA島原雲仙の第一選果場です。広い場内の3分の2がブロッコリーの選果ゾーンに当てられていることからも、ブロッコリーにかける熱意の高さが伝わってきます。ここには、収穫後すぐに運ばれてくるブロッコリーを、鮮度そのままに各地へ出荷するための工夫がたくさんあります。
案内してくださるのは、JA島原雲仙の職員・柴田英敏さんです。

「運ばれてきたブロッコリーは、まずミストシャワーを浴びせます」と柴田さん。シャワーは洗浄目的ではなく、水分を保持し、気化熱を利用して品温を急速に下げるためのもの。その後、冷蔵庫で一晩かけて冷却しさらに低温を保ちます。特に気温が高い時期には、初期冷却が重要なのだそうです。

▲ 地下水のミストシャワーを1分間、約10リットル浴びせます。

▲ 2℃に設定された冷蔵庫で一晩かけて「冷やし込み」。2℃という温度設定は、機械誤差を考慮し、凍結による品質劣化や休眠を避けるため。水分を保持し、乾燥による劣化を防ぐために、急速な冷却が重要です。
一晩冷却したブロッコリーは、翌日選別ラインへまわされます。サイズや重さによって、規格ごとに瞬時に選り分けられて、箱詰めのレーンへ渡されるブロッコリー。機械化が進む中でも、選別は人の目で。その理由について柴田さんに尋ねると、「ブロッコリーは表面だけではなく、裏側にも病害や虫の混入の可能性があります。それを機械で判別するのは難しいんです」とのこと。選別ラインもまた、安定した品質を保つための要であることが伺えました。

▲ ラインは2箇所あり、大型ラインは1日2000〜2500ケース、小型ラインは1500ケースが選別にかけられます。規格外となったブロッコリーの一部は、寄付や社会利用されているとのことです。

鮮度を保つ「冷却」がすごい!
選別されたブロッコリーは発泡スチロール箱に詰められて出荷準備に入ります。いよいよ、雲仙ブロッコリ−の品質を保つために欠かせない「氷」の登場です。

▲ 1ケースあたり6kgの氷を投入します。氷の形状は、粒の細かい「かき氷」ではなく、隙間に入りやすい「板氷(フレークアイス)」を起用。これによって、単なる保冷材ではなく直接冷却するための「冷却材」として機能します。

▲ 選果場には、3基の製氷・貯氷タンクが。1基あたり12トンの氷をストックできるため、最大36トンの貯氷能力があります。12トンの氷は、1ケースあたり6kgで2000ケース相当分。24時間で空になるため、出荷量(需要)が製氷能力(供給)を上回る可能性があります。そのため、週の始めの月曜日に最大36トンの在庫を確保し、1週間かけて出荷量と製氷の進捗を見ながら氷が枯渇しないような調整・管理を行なっているそうです。
ブロッコリーの一大産地に成長した理由
徹底した冷却・温度管理のもと、出荷準備が完了すれば、いよいよ冷凍車で各地へと運ばれていきます。輸送中に品質を維持するためには、ブロッコリーから発生する熱をおさえて、積極的に冷却する仕組みが不可欠です。「特に夏場の長距離輸送では、ダンボール梱包では、品質維持が難しい」とおっしゃいます。この揺るぎないコールドチェーンこそが、雲仙ブロッコリーの肝なのです。

▲ 花蕾がぎゅっと引き締まったブロッコリーはおいしい証。産地の品質そのままをお届けするコールドチェーンは私たちの食卓へとつながっています。
JA島原雲仙の第一選果場が稼働を開始したのは平成28年のこと。この地域のハブとして、特にブロッコリーの一大産地を目指す覚悟で、さまざまな改革をおこなったと柴田さんは言います。
「元々、選別から箱詰め作業までを個々の農家のみなさんが行なっていました。それを、農協主導の『共同選果』体制にしたことで、生産規模が拡大して生産性が向上したんです」。農家は栽培に専念し、農協が選果・出荷作業を担う。この分業体制への移行が、労働負荷の軽減につながり、作付面積の増加を可能にしました。その結果、製氷・選果施設の初期投資や長崎県随一の産地としての地位を確立します。

▲ 柴田さん(左)と取材に同行していただいたJA全農青果センターの鈴木さん(右)、コープ九州の上田さん(中)
現在、雲仙ブロッコリー部会には67名が所属しています。さまざまな改革を行った結果の現れとして、若手後継者の参入の壁を下げ、県の平均を大幅に上回る40歳以下の後継者比率(20%超)を実現する土壌が育まれているようです。本多さんの圃場で感じた「なんだか楽しそう」という和やかな作業の現場や、柴田さんのお話に感じる一大産地としての誇り。高い品質を保ちながら生産量を維持するための努力と覚悟をひしひしと感じさせていただく、貴重な時間となりました。
ブロッコリーの疑問 Q&A
Q:ブロッコリーを長持ちさせるコツを教えてください。
A:ブロッコリーは低温と適度な湿気を好みます。冷蔵庫で保管する時はクッキングペーパーや新聞紙に水分を含ませて、覆ってから保存袋で保冷してください。冷凍する時は、硬めに茹でてから冷凍すると、調理する時に崩れにくく使いやすいそうです。
Q:ブロッコリーの芯に空洞があることがありますが、どうしてですか?
A:芯の空洞は、主に、生育時の水分の急激な変化によって起こります。味や品質には影響がありませんので、安心してお召し上がりください。生育期に乾燥後の急な降雨や、気温の急な上昇で吸水が一気に進むと、外側の組織が大きくなるスピードに内側の組織の成長が追いつかず、引っ張られて、中心部が裂けてしまうことが原因です。
柴田さんから「農家さんは忙しいから、短めにお願いね」と念を押されて向かった圃場。雲仙岳と石垣に囲まれたブロッコリー畑を照らす朝の光が美しい!ブロッコリーを刈り取る手捌きがかっこいい!と感慨も束の間、収穫は時間との勝負だったことを思い出し、慌てて我に返り、お話を伺いました。お忙しいにもかかわらず、丁寧に、なにより楽しそうに話してくださる本多さんファミリーの笑顔が印象に残ります。雲仙から新鮮なブロッコリーが届くたびに、あの美しい畑に思いを馳せつつ、教えていただいたレシピや長持ちのコツを早速自宅で実践中です。
(SATETO編集部)
料理家松竹さんに教わる 雲仙ブロッコリーレシピ
花蕾がぎゅっと引き締まった雲仙ブロッコリーのおいしさをたっぷり堪能できるレシピを、料理家の松竹さんからおしえていただきました。毎日の食卓にぜひお役立てください。
ほくほく&とろとろの食感が魅力
「ブロッコリーとひき肉のミートグラタン」

ブロッコリーとひき肉、じゃがいもを重ねた、食べ応えのあるミートグラタン。ホワイトソースは、じゃがいものとろみと牛乳で仕上げます。やさしい味のホワイトソースに、トマトの酸味をきかせたミートソース。そこにブロッコリーとチーズを重ねて焼き上げることで、層ごとに異なる味わいと食感が楽しめるグラタンに仕上がります。
レンジで簡単!お弁当にも
「ブロッコリーのチーズおかか和え」

ブロッコリーの甘みに、粉チーズのコクとおかかの旨みが重なり、シンプルながら満足感のある味わい。ブロッコリーの甘みを引き立てながらも、チーズのコクが広がります。温かいうちでも、時間を置いてもおいしく味がなじむので、お弁当のおかずにもぴったりです。あと一品ほしいときにさっと用意できる手軽さも魅力です。
捨てがちな茎でもう一品!
「ブロッコリーの茎と長ねぎのナムル」

つい捨ててしまいがちな、ブロッコリーの茎。実は、加熱することでやわらかく甘みが増し、ちょっと手間をかけるだけで立派なおかずに変身します。今回ご紹介するのは、ブロッコリーの茎と長ねぎを使った、コクと辛みのバランスが心地よいナムル。胡麻油の香りと生姜の風味、コチュジャンのほどよい辛さが加わり、シンプルながら満足感のある副菜に仕上がります。













この記事はいかがでしたか?ご感想・コメントをお願いします。
※こちらはご覧いただきました記事に関するご感想をお聞かせいただくことを目的としております。商品等個別のお問い合わせにつきましては、正確に調査・回答させていただくために、こちらのフォームをご利用ください。