
毎日の食卓に欠かせないトマト。サイズ、味、色など、今や選ぶのに悩むほど豊富な種類が並んでいます。今回伺ったのは、農業が盛んな長崎県の島原半島の南端に位置する旧加津佐、口ノ津、南有馬、北有馬地域です。ハウス栽培で育つトマトの最盛期は3月から5月にかけて。私たちが訪れた2月の末はまさに、「今が一番おいしいよ!」と農家さんが太鼓判を押す絶好のタイミングでした。多様なトマトが全国各地で栽培される中で、大雲仙育ちのおいしさの秘密を探りに、訪問しました。
大雲仙とまとが実るまち

2月とは思えない暖かな気温の中、トマトを栽培するハウスへ伺うと、赤いおそろいのジャケットを着た10名ほどの「大雲仙とまと部会」のみなさんがにぎやかに迎えてくださいました。農産品の一大産地である大雲仙の中において、JA島原雲仙の人気ブランドである『大雲仙とまと』を生産するこちらの部会には、現在43名が所属しています。高齢化が進み、全国的に農業の持続性が課題となる中でも、ここ南島原では若手従事者も多く、和気あいあいでのどかな雰囲気です。

ひとくちに『大雲仙とまと』と言っても、2種類の品種がありそれぞれに特徴があります。酸味と甘みのバランスがほどよい『レオン』(大雲仙まるかじりとまと)と、高糖度で食味重視の『ソプラノ』(大雲仙スイートとまと)。どちらも小ぶりなサイズで、まるかじりも大歓迎。何度でもリピートしたくなるおいしさです。
ここ南島原は山と海の距離が近く、年間を通して平均気温は温暖ですが、朝晩はしっかりと冷え込む「寒暖差」が大きい気候が特徴です。その寒暖差が、トマトにとっては好条件なのだと教えてくださったのは、部会長の吉村さんです。

吉村さんの圃場案内
耳を澄ますと「ポキっ、ポキっ」と収穫の音が聞こえるハウス。足を踏み入れると、もぎたてトマトのさわやかな香りが立ち上ります。吉村さんはトマト栽培を始めて35年という大ベテランの生産者です。お話しを伺ったハウスでは、スイートトマトのソプラノが鈴生りでした。
「このハウスの面積はだいたい850平米だから約2000本やね。26〜27度がトマトの生育に適した気温やけど、夏場はハウスの中が40度を超えるからもう大変よ」。そんな苦労話が飛び出すほど、訪れた日も外気が15度を超えるような冬とは思えない暖かさでした。遮光カーテンや遮熱資材を使用するものの、効果は限定的。夏場はモーター付きの空調服を着用し、日中を避けて極力朝と夕方に作業を集中させるなど、品質の要となる温度管理は到底、一筋縄ではいかない様子です。

一年を通してトマト栽培に取り組む吉村さん。7月下旬の土づくりから始まり、8月お盆過ぎにかけて種を蒔きます。そこから収穫まで約2ヶ月半。10月下旬から中旬ごろから翌年6月まで収穫が続きます。
「ここの土壌は、粘土質の重たい土ですが砂も混じり水はけも良いのが特徴。圃場ごとに土質は違いますが、土づくりは特に大事にしています」と吉村さんは力を込めます。
「大雲仙とまと」の特徴の一つは、特別栽培であること。農薬散布は慣行栽培の50%以下に抑えられています。頼りは自然の力と作り手の技術です。その中で高い品質のトマトを作るためには、さまざまな工夫が欠かせません。
脇芽かき、誘引(茎の固定)、葉かき、摘果を日々継続的に行いながら、「水の管理が特に重要」だとおっしゃいます。
「ソプラノは高糖度重視の品種です。糖度を上げるためには、水を極力ひかえストレスを与えることも食味を向上させる大きな手段です」。
水分が不足すると、トマトは細胞内の水分を逃さないように糖分やアミノ酸などを蓄積し始めます。その性質を利用した水分ストレス栽培が、糖度を高めることにつながっています。作り手の意図した「絶妙な乾燥状態」を維持しやすい水はけの良い土壌。高糖度なトマトづくりは、日々の管理と南島原の豊かな土壌のもとに成り立っていました。

▲ 土をビニールで覆って、土の温度を50度以上にあげて殺菌する『太陽熱消毒』。病原菌や害虫、雑草の種を死滅させる、農薬を使わない土壌消毒法です。肥料は、稲藁、米ぬか、微生物資材の小鮒(こふな)を活用しています
生きた技術とおいしいトマトを作りたいという思い
トマトが色づくタイミングは、毎日の平均気温を足した「積算温度」が約1000度に達した時。これによって収穫時期を予測。11月から6月まで週3回のペースで収穫が行われます。複数のハウスをもつ吉村さんは、ハウスをローテーションしながら、ほぼ毎日収穫と出荷作業を行なっているそうです。「レオン」は「ソプラノ」よりも夜間の設定温度を高く設定して、収穫までの日数を短くするなど、品種の特性に合わせながら精緻な管理をしていることが伺えます。
「2月、3月は寒暖差が大きいから、木になっている時間が長くなります。だからこの時期のトマトが一番おいしいんですよ」と吉村さん。光が差し込むハウスでは、水分を控える栽培法によって、トマトが空気中の水分を求めて産毛を立たせているため光沢を帯びています。ヘタの周りに「ベースグリーン」という緑の線がくっきりと現れたトマトを指して、吉村さんは「これこれ!これが最高の色よ!」と嬉しそうに教えてくださいました。

たくさんの技術と工夫が詰まったトマト栽培の話を伺う中で、「実はソプラノという品種は時代遅れの品種なんよ」と、ドキッとする言葉を漏らされました。最新のAIや高度なIOT技術によって、温度や水管理も自動化が進む一方で、「私たちのような個人経営の小規模な農家が、そこまでの設備投資で見合う収益を確保することは難しいでしょう。だからこそ、私たちにしかつくれないトマトを目指しているんです」と吉村さんはおっしゃいます。
「ソプラノ」という品種は、強い旨みがある魅力的な品種です。一方で、種苗メーカーが「栽培が難しいから、この品種は普及ができない」と評するほど、栽培が難しい品種でもあるそう。そんな中、南島原の生産者たちは、ソプラノの生育とこの地の土壌との相性が良いことを見抜きます。そこで、水と肥料の比率を繊細に調整する「肥培管理」を徹底することで、ソプラノがもつ最高の食味と品質を引き出すことに成功しました。
土づくりにはじまり、苗の自家生産や20年以上続く接ぎ木の技術、糖度を高める栽培法など、長年の経験と手間をかけた丁寧な手入れ。「大雲仙とまと」のおいしさの裏側には、最新の技術に頼りすぎず、独自の味を愚直に追求する姿勢がありました。

農業を次世代が安心して続けるためにできること
吉村さんは現在、三世代体制で農業を営んでいます。以前はお父さまが、メロンやかぼちゃなど多品目を栽培していたそう。吉村さんの世代に引き継がれ、トマト一本で、事業を開始しました。圃場には、今も現役バリバリに吉村さんを支える父信義(のぶよし)さんと、息子の幸城(こうき)さんの姿も。三世代が同じ圃場で栽培に向き合っているということは、日々の作業で自然と知識が共有されるかけがえのない機会となっているといえます。後継者である息子の幸城さんの存在は、吉村さんにとって、大きな喜びであると同時に、現代農業の厳しさから、息子さんが将来に渡って農業を続けていけるのかという心配も抱いていらっしゃるようです。
「農業で飯を食うっていうのはさ、体が資本で、これだけいろんなもの(資材や流通コスト等)が高騰していって、順風満帆っていうわけでもないんですよ。継いでくれるのは嬉しいけど、心配ではあるよね。みなさんにおいしいものを食べてもらいたいという一心でやっているので、たくさん食べてもらって、支えていただきたいですね」と吉村さんは切実な思いを吐露してくださいました。

買って支える「買い支え」は、単なる経済的な支援だけではなく、次世代が安心して農業を続けられることにもつながります。消費者の応援はおいしいトマトを作り続ける励みにもなるということを、あらためて実感する時間となりました。
トマトの疑問 Q&A
Q:トマトをまるかじりする場合においしく食べるコツを教えてください。
A:トマトは15度〜20度程度の常温が一番おいしく食べられると言われています。食べる前に冷蔵庫から取り出し常温に戻してから食べると良いでしょう。
Q:トマトを切るとトロっとした部分がありますが、あれはなんですか?
A:トマトを切ったときに出てくる、種を包んでいるあのトロっとした部分は「ゼリー」と呼んばれます。酸味や旨み成分がたっぷり含まれているので、できるだけゼリー部分もこぼさないようにカットして、丸ごと味わいたいですね。フルーツトマトは緑が濃く、甘味のバロメーターにもなっています。
農家さんおすすめのトマトレシピ
「トマト丸ごとお手軽スープ」
[ 材料(ひとり分)]
・トマト 4分の1個分
・コンソメスープの素適量(キューブ型の場合4分の1かけ程度)
・ウインナー 1本
[ 手順 ]
1 トマトは一玉を4等分に、ウインナーは食べやすい大きさにカットする。
2 紙コップまたはレンジ対応のマグカップに材料を全て入れる
3 レンジ(600w)で2分温める
そのまま食卓に出せるという手軽さとトマト丸ごとのおいしさが凝縮したあっという間のレシピです。
※器はレンジ対応のマグカップなどを推奨します。


▲ ハウスの前の青空の元でスープを作ってくださったJA職員の吉田日登美さん(右)と氏原彩香さん(左)。ごちそうさまでした!
収穫したばかりのトマトを「食べてみて!」と差し出され、そのままがぶり。27度ほどのハウスの温度にほぼ近いであろう体温をまとうそのトマトのおいしいこと。甘味と酸味の後ろ側にもうひとつ感じる、旨みという表現では足りない、深い味がする。吉村さんにそのまま伝えると「それが食味っちゅうやつよ」と教えてくださいました。そのままむしゃむしゃと、小学生の夏休みばりの勢いで、あっという間にまるかじり。ああ、おいしかった。
「毎年同じようにはできないよ」とおっしゃる吉村さんのお話しぶりは常に謙虚ながらその言葉は確信と自信に満ちていました。自然、気候の変動に大きく左右される現場で、生きた技術とおいしいトマトを届けたいという誇りに触れられたことが、訪問の大きな収穫となりました。
(SATETO編集部)
料理家松竹さんに教わる 大雲仙とまとレシピ
旨みがギュッと詰まった大雲仙とまとを使ったレシピを、料理家の松竹さんからおしえていただきました。毎日の食卓にぜひお役立てください。
おもてなしにもぴったり
「トマトと焼きナスの自家製ポン酢かけ」

甘酸っぱい雲仙とまとに香ばしく焼いたナスを合わせた「トマトと焼きナスのポン酢かけ」。酸味と旨みのバランスがやさしい「自家製ポン酢」を使うことで、野菜の持ち味がぐっと引き立ちます。トマトのみずみずしさと焼きナスの香ばしさ、豆腐のやさしい口当たりが重なり、ついつい箸がとまりません。副菜としてはもちろん、前菜やお酒のおともにも活躍してくれそうです。
作り置きにも大活躍
「トマトのはちみつマリネ」

そのままでもおいしい雲仙とまとですが、ひと手間かけるだけで、まるでデザートのような一皿へと変わります。ご紹介するのは、はちみつのやさしい甘みと、バルサミコ酢と醤油のコクが染みたマリネ。生姜をほんのり効かせることで、甘さの中にほどよいキレが生まれ、後味はすっきり。前菜としてはもちろん、食後の口直しにもおすすめの一品です。

















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